ウイルス送信は犯罪か?(1)
●「ウイルスの恐怖展」のショートムービー「他人事ではない!ウイルスの怖い話-THE MOVIE- STORY1 無知の罪」はご覧になりましたか? いかがでしたか?
ウイルス感染の怖さ、被害者が加害者になることを、裁判劇を通じて訴えているわけで・・・と解説をはじめるとあまりにも無粋な感じがするのですが。
「実際、罪になるんだろうか?」と素朴な疑問も抱く人も少なくないだろうと思います。
そこで、結論から先に述べますと、日本の刑法にはコンピュータ・ウイルスに関する処罰規定がありません。したがって、コンピュータ・ウイルスを単純に作っただけでは犯罪になりませんし、感染した結果、意図せずにコンピュータ・ウイルスを他人に送信してしまったとしてもそれだけでは犯罪にはなりません。「法律なければ犯罪なし」であります。
「なーんだ、そうか」と、「ショートムービーは完全なフィクションか!」と。確かに、まあ、フィクションはフィクションですが、しかし、どのような場合も常に無罪かというとそうではないかもしれません。
・・・・・ということで、
このココログですけども、コンピュータ・ウイルスの作成、提供、実行、取得、保管といった行為が、日本の法律上、どのような罪になるのか、それともならないのか、という問題からはじめたいと思います。
この問題は、日本では、明治大学法科大学院の夏井高人教授がいち早く取り組まれて、様々な提言を含む論文を発表されています。「サイバー法」といわれる法分野に属する問題ですが、夏井先生は、まさにその権威であります・・・。(←夏井先生の論文等は次回以降ご紹介していきたいと思います。)
しかし、「サイバー法」とは・・・、なんともきわもの臭い、怪しげな、よく言えばSF的響きのある名称です(大学によっては、「情報法」と呼ぶところもありますけども)。さて、この「サイバー法」、実際、認知された法分野なんでしょうか?「UFO研究」と同じようなものではないかと疑うのも無理のないところかもしれません。
でも、世の中には、「欧州評議会サイバー犯罪に関する条約」(以下「サイバー犯罪条約」といいます。)というれっきとした条約が存在しますし、EU加盟メンバー以外の日本もアメリカもなんとすでに署名までしています。現在、法務省では、日本の刑法や刑事訴訟法を、このサイバー犯罪条約に適合させるため、着々と整備を進めています。(←こうした作業をインプリメンテーションといいますね。)
実は、こうした刑事法制の整備によって、コンピュータ・ウイルスに関わる一部の行為が、新たに犯罪となるかもしれません。
ちなみに、こうしたサイバースペースで行われる犯罪と刑罰に関する刑法学を、「サイバー刑法」と呼ぶことがあります。なんともおもしろそうなタイトルだと思うのですが、その実、あんまり人気がないようです。そのあたりは、サイバー刑法の第一人者の落合洋二弁護士(情報ネットワーク法学会サイバー刑事法制研究会主査代行)や指宿信先生(立命館大学法科大学院教授)がブログでちょっとぼやき気味に語られています。(←サイバー刑法に関心がある方はぜひ、各先生のブログをのぞいてみてください。)
さて、長くなるので本日はこのくらいにして、次回以降ですが、
まずは、(1)現行法でどのような行為が犯罪となるか、次に(2)今後新たにどのような行為が犯罪となるか、サイバー犯罪条約の署名以降の日本の刑事法制の改正動向を簡単にウオッチしていこうと思います。これは、刑事法学者、サイバー刑法に関する実務家だけの問題ではなく、企業関係者、情報セキュリティ担当者、インターネット利用者ひとりひとりに関係する問題だろうと思います。
ウィルスの被害者は、自分だけではなく、周囲にもたくさんいるでしょうし、会社も大きな被害を受けたりしているでしょう。でも一番怖いのは、ある意味で無知ゆえに自分自身が犯罪者になることかもしれません。(とショートムービーと似たような「おち」で、ひとまず1回目は終わりと・・・・。)
(つづく)
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